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    ガラスで覆われた高層ZEB 近畿産業信用組合新本店(前編)

     ガラスで覆われた地上18階建てのビルが、交差点に面してそびえ立つ。2019年1月に完成した近畿産業信用組合新本店(大阪市中央区)は、まだ希少な存在といえる高層ビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。創エネを含まない1次エネルギー消費量の削減率が60%、創エネルギーを含むと61%となり、ZEB Readyの基準をクリアした。

     

     近畿産業信用組合は、預金残高が1兆3000億円を超える国内有数の信用組合だ。新本店は、大阪の金融の街、北浜エリアに位置している。同組合は堺筋と淡路町通の交差点に面した土地を購入して新本店ビルを建築し、これまで本店を構えていた大阪市天王寺区から2019年5月に移転した。

     

     計画に当たっては建設会社を対象にした設計・施工コンペを実施。「温故創新」というテーマを掲げてZEBの実現を目指す大成建設案を採用した。近畿産業信用組合総務部の松岡富雄部長は、「100年先の未来を見据え、地球環境に優しい先導的なビルを一緒につくろうとうたった大成建設案を高く評価した」と振り返る。

     


    南東側の外観。手前の道路が堺筋(写真:近畿産業信用組合)

     

     意匠面でも温熱環境面でも、建築設計のポイントとなっているのがダブルスキンの外装だ。道路に面した東側と南側の外観は、柱と梁(はり)の部分を石張りとした上、2階以上を合わせガラスのアウタースキンで覆った。合わせガラスの取り付けには、金物で挟み込んで留めるMPG(メタル・ポイント・グレージング)工法を採用して平滑な外観を生み出している。

     

     「伝統と革新の融合を図った。金融機関の建物が並ぶ北浜エリアには石張りの重厚な建築が多い。伝統的な石張りの上に革新を表す外装ガラスをまとわせることで、従来には無い表情をつくれないかと考えた。ガラスの建物は温室のようになって暑いというイメージを抱かれがちだが、このダブルスキンは省エネを実現する装置にもなる」。大成建設関西支店の平井浩之設計部長は設計の狙いをそう話す。

     

     ダブルスキンは日射熱を受ける建物外周部の緩衝ゾーンとなり、建物の熱負荷を減少させる役割を果たす。ダブルスキンの最下部から取り入れた空気は、太陽の熱で暖められて上昇して最上部から抜ける。インナースキンとなる窓部分のガラスはLow-E複層ガラスとし、太陽追尾型の外付けブラインドを取り付けて直射日光が入る時間帯は自動的にブラインドを閉じる仕組みとした。ダブルスキンの奥行きは41cmとし、インナースキンの窓ガラスを開ければアウタースキンのガラスの内側を清掃できるようにしている。

     

     建物を覆うフラットなガラス面は、時間や見る場所に応じて多様な表情を見せる。角度によっては建物本体の石張りが透けて見えたり、ガラスに雲や緑が映り込んだりする。夕刻以降はブラインドを閉じ、各窓の下部に設置した発光ダイオード(LED)照明を点灯してライトアップを行う。四季ごとのテーマカラーを用いた演出の他、クリスマスツリーや雪だるまといった季節感のあるライトアップも用意している。

     

     ダブルスキンによる熱負荷の軽減効果が大きいため、一般部の外皮性能は「通常のビルと同程度」(平井氏)とした。屋根面には厚さ35mmの押し出し法ポリスチレンフォームを施し、外壁は硬質ウレタンフォームを厚さ15mmで吹き付けた。

     


    近畿産業信用組合新本店の基準階平面図(資料:大成建設)

     

    ダブルスキンで空調負荷を低減

     

     空調は、外気処理空調機(外調機)で湿度を調整し、室内空調機で温度を調整する潜顕分離型空調システムを採用した。室内空調機に除湿機能が必要なく、湿度と温度を別々にコントロールすることで効率的に快適な室内環境が得られる。

     

     さらに、ダブルスキンを活用して空調の負荷を軽減させている。ダブルスキンの上部に切り替え式のダンパーを設置。夏はダンパーを開けて、ダブルスキンを上昇する間に暖まった空気を外へ排出する。冬はダンパーを閉じて暖められた空気を外調機へ取り込む。中間期も、湿度調整で冷却した空気の再熱に用いている。

     

     ダブルスキンでは、最下端から空気を取り入れて最上部から排気する。「層ごとに空気を抜く方式」「3層ごとに抜く方式」などをシミュレーションした結果、現在の方法が最も効率的と判断した。

     

     試算では、夏はダブルスキンの下部で36℃程度だった空気が上部の排出時には46℃程度まで上昇する。「ダブルスキンの上部は熱だまりになりやすい。ここではダブルスキンを塔屋まで伸ばし、執務フロアの最上部である17階にも熱がたまらないようにした」(大成建設エネルギー本部ZEB・スマートコミュニティ部の根本昌徳スマートコミュニティ推進室長)。一方、冬は下部で5℃程度の空気が上部では24℃程度まで上昇する計算だ。

     

     この他にも空調負荷を軽減させる工夫を盛り込んでいる。室内には、CO2センサーによって在席する人数を把握し、必要な分量の外気を導入する。換気は、空調された新鮮な空気を事務室などの居室に送り込み、非居室である廊下や書庫、倉庫を介してトイレから排気する。これも外気導入量の削減に結び付く工夫だ。トイレからの排気もいったん外調機の全熱交換器に戻して熱回収するなど、熱をできる限り活用した。同時に、全熱交換器に臭気が移りにくいイオン交換樹脂を用いるなど、臭気対策も盛り込んだ。

     

     照明は、大成建設が東光高岳(東京・江東)と共同開発したシステム「T-Zone Saver」を導入した。熱感知により、事務室のエリアごとの在不在に応じた照度コントロールを行う。

     

     「特に珍しい技術を取り入れているわけではなく、汎用技術を積み重ねてZEBを実現した」(大成建設関西支店設計部の湯浅孝・設計室長設備担当)

     

     新本店は2019年1月に完成し、同5月20日にオープンした。同6月から8月にかけた新本店全体の消費電力量の実績値は、事務所ビルの基準値を新本店に当てはめた数値に比べて62~70%の削減となった。

     

     ZEBは、発注者の近畿産業信用組合が求めた条件ではなく、コンペ時に大成建設が自主的に提案したものだ。延べ面積も、シンボリックな建物とするため、コンペの要綱で示されていた条件を超過する規模を想定した。

     

     建物の足元に広場を設けることで容積率緩和を受ける総合設計制度を利用して、78mという高さを確保している。こうして得た高さ方向の余裕を生かし、1、2階のエントランス・営業室まわりや5、6階の大ホールなどで2層を一体化した使い方をして広がりのある空間を持ち込んだ。

     

     「ZEBというと、できるだけコンパクトな規模で窓を小さくするという設計をしがちになるが、ここでは新しい考え方を提案できたのではないか」と平井氏は胸を張る。

     


    2層分をつなげて設けた大ホール(写真:近畿産業信用組合)

     

    近畿産業信用組合新本店の建築概要データ

    ●所在地:大阪市中央区
    ●地域区分:6地域
    ●建物用途:事務所等
    ●構造・階数:鉄骨造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造、地下1階・地上18階
    ●延べ面積:1万1335m2
    ●発注者:近畿産業信用組合
    ●設計者:大成建設関西支店
    ●施工者:大成建設・長谷工コーポレーションJV
    ●完成:2019年1月

    (日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事から抜粋)

     


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